「A」
- 作者: 森達也
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2002/01/25
- メディア: 文庫
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本書は、95年のサリン事件直後のオウム真理教とマスコミの関係を描いたドキュメンタリー映画「A」の制作日誌といったものである。映画は大学生の頃に見た経験がある。
森達也が描くものの1つに、思考停止してしまった世界の恐怖というものがある。一般の人たちはオウムを分からないと言い、オウム信者は一般社会を分からないと言う。しかし本来は、曖昧であるくせに残酷な社会の制度なんて分からないし、びっくりするくらい厳格に構成されているオウムの組織も分からない。「分かる」の1面とは、そのような制度を無自覚に受け入れることであろう。
あらかじめつくられている制度を疑うことは、誠実であっても賢明なことではないかもしれない。そして答えの見つからない不毛な行為でもあるのだろう。でも、自分の頭で真摯に何かを考えることには何かしらの意味が必ずあるはずだ。森達也の作品は、その価値の一瞬を僕たちに見せてくれる。