新教養主義宣言

新教養主義宣言 (河出文庫)

新教養主義宣言 (河出文庫)

 橋本治ジュニア、山形浩生のエッセイ集。橋本も山形も共に信頼できるトリックスターの文章書きだけど、世代的な差が二人の中にはある。全共闘世代の橋本には「教養」という土台があるが、山形にはそれがない。それは山形がものを知らないってことではなくて、70年代までの日本にはまだ、「教養」がどうにかこうにか生存していたということ。だから、橋本がどんなにくだらなく見える文章を書こうが、その根っこの部分には「教養」というものに対する無意識の信頼がある。しかし、64年生まれの山形の文章にはそれが感じられない。山形の言説がどれほどすばらしくても、結局それはタコ壷化された小さな世界のうちにしか届いていかない。山形に限らず、70年以降に青春を過ごした人間たちには絶対というものをつくりだせない。
 以下は、本書の中から面白いと思った部分をメモ。

いまの世の中の「問題」と称するものの多くは、みんなが暇で退屈していることから起きている。「いじめ」とか、「学級崩壊」とか。あるいは家庭の何とかとか。(p,11)

教養というのは、本来はずっと実用的なものだ。さっきも言ったように、教養って価値判断のベースになるものなんだもの。そして世の中の「商売」と呼ばれているもの、ビジネスと称するものすべて、この価値判断のかたまりじゃございませんか。それをきちんと教えなくてはならない。(p,30)

 日本の文化とは結局は、古くは中国からの、明治維新後は西洋から、終戦後はアメリカからの、輸入されたローカル文化に過ぎないのだ、という指摘。