文学なんかこわくない

文学なんかこわくない (朝日文庫)

文学なんかこわくない (朝日文庫)

 文学について語る高橋源一郎は、誠実で真摯だ。
 高橋が語る文学論で出てくる物語たちは、きらきら光っているよ。
 以下は、本書の中から印象に残った部分。
 小説は3つの部分よりできている。1つは「物語」。次が「ゴシップ・スキャンダル」。最後が「芸術」だ。で、この3つは相性があまりよくない。いつの間にかそれぞれははなればなれになっていった。
 批評家たちは、ポルノグラフィーの特徴を「非文学性」と「永遠の現在形」と考えてきた。文学はこの世界を模倣し、その結果時間と空間の広がりを見せていく。一方、ポルノグラフィーは肉体そのものを模倣するがゆえに現在にとどまることになる。そこではセックスのはじまりが小説のはじまりであり、セックスの終わりが小説の終わりであり、歴史も空間も、時間もない。
 文学とは、孤立した「個人」を世界の「公共性」へと繋げる最大の武器である。そして文学とは、その国語によって拘束された国語の世界を超えていこうとする試みである。それは文学だけが可能にして、文学の根拠となっている部分である。