花物語

花物語 (ポプラ文庫)

花物語 (ポプラ文庫)

 雑誌「Myojo」に連載されていた、さべあのまの挿絵付き橋本治の小説です。橋本治は、学校の教科書にのっているようは小説を書くことを目指したそうです。そのとおり、道徳の教科書にのってもよさそうな小説ばかりですが、やはり橋本治橋本治です。
 特におもしろいと感じたものが、「お年玉」という小説です。高校生の男の子と女の子が、一緒に初詣に行くため、電話をするという内容です。

 ヤスコさんは、「何してるのー?」と言いました。そう言って、「それで、あんたがひとりで勝手なことしていたら、私は怒るからね。」と黙っているのがヤスコさんです。
 ミノルくんは、「なんにも――」と答えました。なんにもしていない以上、正直に「何にもしていない」と言うしかなかったからです。
「だったら、私のところに電話してくりゃいいじゃないよ」と、ヤスコさんは思いました。思いましたが、黙っていました。
「だったらさ――、初詣に行かない?」と、ヤスコさんは言いました。「用もないのに電話した女」と思われるのが、ヤスコさんはいやだったからです。
「行こうか」と言ったのは、夜中に初詣に行って、さっきちょっと前に起きてきたばかりのミノルくんです。ミノルくんは暇で、誰かが誘いに来てくれるのを待っていただけだったのです。

 登場人物の感情を、ここまではっきりと言葉としてしまう作家はあまりいません。そこまで直截的な言い方で描写してしまうと、あんまりだ、という印象を通常は受けるはずです。でも、橋本治にはそうなりません。
 言葉(論理)の力が非常に強力でありながら、微妙な思春期の少年少女たちの感情を描ききっています。叙情的でもあります。やはり橋本治は只事ではない、と思います。
 さべあのまのイラストも素晴らしいです。