色好みの構造

色好みの構造――王朝文化の深層 (岩波新書)

色好みの構造――王朝文化の深層 (岩波新書)

 日本人の美意識は、歴代の勅撰和歌集を代表する平安時代に決定し、それ以前をその準備期間、それ以降をその解体期とし、江戸時代はその日本的美意識の再興期であると著者は語る。そして全ての日本の芸術は、平安美学のバリエイションであり、その基軸となっている部分に「色好み」の精神がある。この「色好み」の精神とは、現代的な下世話なものではなく、優雅で、上品で、風情のある遊戯的な、恋のたしなみを指している。
 そして「色好み」の文学の代表作がまさに「源氏物語」である。まあ、これに疑問をはさむ余地はないよな。で、おもしろかったところが「枕草子」との比較をした部分。著者は「枕草子」を「をかし」の文学、「源氏物語」を「あはれ」の文学と分類している。そして「をかし」というのはある社会集団の名かの共通の感覚、つまりは社交界の感覚なのである。
 しかし徐々に武士の存在が大きくなってきて、平安の文化も衰退してくるようになると、この「色好み」の精神も失われてくる。「夜半の寝覚め」や「浜松中納言物語」にはその変化がはっきり現れている。これらの作品には「色好み」の遊戯的な側面よりも、夢うつつのなかへ迷い込む現実逃避的な側面が強く現れている。