ななつのこ

ななつのこ (創元推理文庫)

ななつのこ (創元推理文庫)

 加納朋子のデビュー作。続編となる「魔法飛行」を先に読んでしまったので、本作のオチが分かってしまっていた。それでも、おもしろい。
 北極星にあたる星は、長い年月をかけて少しずつ変わっていく。8000年後には白鳥座のデネブに、12000年後には琴座のヴェガになる。目にははっきり見えないけれども、夜空の星々は絶えず変化していく。同じように、主人公の周りも、そして主人公自身も、気づかぬうちに変化していく。
 北村薫より、僕は加納朋子のほうが好きである。ミステリとしての論理性は弱いけど、北村作品にまさる叙情性ややわらかさがある。考えてみると、ミステリとは実に不思議な小説である。本来、論理や言葉といったものでは表現することのできない人間の感情を、きわめて論理的な構造である小説によって表現しようとするのだから。日常の謎派の作家たちは、この点に非常に意識的であるだろう。