失楽園の向こう側

失楽園の向こう側 (小学館文庫)

失楽園の向こう側 (小学館文庫)

 橋本治が2000年から2003年の間に、「ビックコミックスペリオール」で連載していたエッセイをまとめたもの。「ヤングサンデー」で連載していた「貧乏は正しい!」の、中年男性版だと考えればいいだろう。
 よくまとまっているけど、昔の本の方が面白かったなあ、というのが印象。読者にちゃんと理解させようとしている気がする。そんなことまるで考えていないような昔の本の方が、面白かったし訴えてくるものがあったように思う。結果、理解しやすかったとも思う。
 興味を持った点を、拾い上げて、簡単にまとめる。
 明治維新からの「近代」なる歴史の記述は、思想が右か左かという基準によった。しかし社会が豊かになり、大衆が生まれたとき、それはなくなった。そのかわりに、「経済」というものが侵入してきた。
 無思想であるとする日本人の思想とは、社会に適応することである。30になるまで日本人は、社会に適応できるかどうかが試される。そして適応できたとき、30代の日本人はすでに疲れているのだ。
 「自分」というものは、自分の生活から、家庭というものと会社というものをとりさった、余りの部分に現れるものだ。
 性欲というものは、安定した現在の中に突如入り込んでくるランダムな未来である。だから、つかの間その未来を見たとしても、その未来は蜃気楼のように、なかなか現在とは結びつかない。