背中あわせのハート・ブレイク

背中あわせのハート・ブレイク (新潮文庫)

背中あわせのハート・ブレイク (新潮文庫)

 この作品の序章の部分を読むことで、なんとも言えない郷愁を感じる世代がいるのであろう。そこには、終戦から4、5年経た後の日本の少年の姿がある。とつぜん与えられた「自由」と、圧倒的なアメリカの大衆文化の波を受けて、その中に自分たちの未来を見つけようとしている少年の姿である。僕には、言及されているガシェットを全て理解できるわけではないが、その雰囲気だけなら十分に伝わってくる。作品の冒頭部とは、その作品の雰囲気を読者に伝える部分なのだから、この点は成功しているといえるだろう。
 作品の前半では学校内での政治問題を描き、後半で当時の社会状況を描くようになる。これにより、主人公たちの少年から大人への成長を表現しているのだろう。原題が「世間知らず」というのも、この点より頷ける。正直、僕にはこれが成功しているとはあまり思えない。違和感を覚える。おそらく、小林の若い頃には、単純に社会へ入っていくことが成熟する条件として認められていたためであろう。現代では、子どもから大人というか、モラトリアムを脱皮するということが、そんなに単純なものではなくなっているため、うまく共感できないのだと思う。