室生犀星詩集

室生犀星詩集 (新潮文庫)

室生犀星詩集 (新潮文庫)

 室生犀星の詩集、編者は福永武彦

秋はしずかに手をあげ
秋はしずかに歩みくる
かれんなる月草の藍をうち分け
つめたきものをふりそそぐ
われは青草に座りて
かなたに白き君を見る(p,33)

美しい給仕女の頬は紅く冴えて
すこし晴れあがったためになお肉感的な
悩ましい美を加えた
ことに泣き濡れた目はぽおっと腫れて
いつもよりずっときれいに見えた
彼女はへいぜいの高慢さにうち挫かれて
いくらか純な女らしく沈んで
ときどき打った男を見つめていた(p,108)