バレエの魔力

バレエの魔力 (講談社現代新書)

バレエの魔力 (講談社現代新書)

 バレエについての入門書。
 バレエは15世紀のルネサンスの時代、イタリアのフィレンツェギリシャ舞踏の復興として誕生する。それがフランスの宮廷に輸入されて、現在の形に完成されたのが18世紀前半とされる。この頃のバレエを、ロマンティック・バレエと呼び、代表作は「ジゼル」である。しかしその後、バレエをめぐる環境はどんどん低俗になっていき、踊り子たちは風俗嬢のような存在になってしまう。ドガが描いていた少女たちは、この時代のバレエ・ダンサーである。一方、19世紀後半のロシアでは、フランスより入ってきたバレエが新しいスタイルを作りはじめる。これをクラシック・バレエと言い、代表作は「眠れる森の美女」である。これがフランスに逆輸入されることにより、バレエの再評価が始まる。
 ロマンティック・バレエは、演劇的で、踊りによってストーリーや感情を表現しようとする。それに対してクラシック・バレエは、ストーリーと踊りは分離していて、ストーリーは踊りのための口実になっている。また、ロマンティック・バレエでは幻想的な、エキゾティックな雰囲気が重んじられるために、繊細さが要求され、クラシック・バレエではむしろテクニックが前面に出る。バレエとは、演劇的な要素と舞台舞踊の要素が混在していて、それが時代によって演劇に傾いたり、純粋舞踊に傾斜したりしながら、発達してきたものだ。
 バレエの本質的特徴とは、開放性と天上志向性である。バレエを日本舞踏と比べてみると、バレエは外交的な、日本舞踏は内向的な印象を受ける。まずアン・ドゥオール*1という技法が、その外向性を証明しており、日本舞踏では体の前で腕を組むという動きが頻出する。そして、天上志向性はポワント技法*2の点よりよく理解できる。日本の舞踏では、踊り手は必ずかすかに膝を曲げ、重心を少し落とす。日本やアジアに限らず、この姿勢はあらゆる民族舞踏に共通した特徴である。これは柔道や空手などでも見られる「かまえ」の姿勢と同じだ。そしてピルエット*3は、観客を非日常の世界にいざなう役割を果たしている。
 また、ダンスには最初から2つの種類があったと考えられる。1つは表出のダンス。つまり、感情や欲望を自分の体で表現しようとするものである。もう1つは描写のダンス。こちらは自分の周りの世界を描写、模倣するものである。前者は西洋の牧畜民族に見られ、下半身を使って、タテ方向に動く。後者は東洋の農耕民族に見られ、上半身、主に手をつかってヨコ方向に動く。
 読者対象を中高年の男性に設定していて、読みながら、なんだかなあと何度も思った。社会的地位や金銭的余裕があるから、その層を狙おうというのは分かるけど、うーん、なんだかなあと、思う箇所が多かった。

*1:両足を外側に180度開くというもの

*2:つま先立ちのこと

*3:くるくる回ること