谷川俊太郎詩選集1

谷川俊太郎詩選集  1 (集英社文庫)

谷川俊太郎詩選集 1 (集英社文庫)

 谷川の若いころの、50年代から70年代までの詩から選られた選集。作者がまだ10代のころの作もある。
 昔の詩は映像的である。それが年を経るにしたがって、言葉のもっている枠を破壊しよう、突破しようという運動が顕著になっていく。
 以下は気に入ったものを引用。

かわいらしい郊外電車の沿線には
楽しげに白い家々が合った
散歩を誘う小径があった
降りもしない 乗りもしない
畠の中の駅
かわいらしい郊外電車の沿線には
しかし
養老院の煙突もみえた
雲の多い三月の空の下
電車は速力をおとす
一瞬の運命論を
僕は梅の匂いにおきかえた
かわいらしい郊外電車の沿線には
春以外は立ち入り禁止である

空の青さをみつめいていると
私に帰るところがあるような気がする
だが雲を通ってきた明るさは
もはや空へは帰ってゆかない
陽は絶えず豪華に捨てている
夜になっても私達は拾うのに忙しい
人はすべていやしい生まれなので
樹のように豊かに休むことがない

さびしいな
なぜだかしらない
さびしいな
だあれもいない校庭の
遠くで海が鳴っている
さびしいな
なぜだかしらない
さびしいな
まっかな夕陽が沈むとき
どこかでだれかがよんでいる
さびしいな
なぜだかしらない
さびしいな
空にはきらきら天の河
あのむこうにはだれもいない
さびしいな
なぜだかしらない
さびしいな
うなされてないた夢の中
きれいなひとも泣いていた