物語の体操

 小説に対する大塚の独自の哲学が展開されながら、それにより小説創作の入門書となっている。
 大塚の小説観は、おそらく民俗学あたりからきているものだろう。物語をいくつかの要素に分けて、そのパターンを分析する。そのパターンを理解して、お話し作りの筋力をみがけば、つまりたくさん習作をすれば、誰にでも小説が書けるという。そのための方法論が、本書には多くの事例とともに紹介されている。
 小説創作について考えたときに、才能によるものだとする極を一方にもち、その対極に職人的技術によるものだという一点をもった、一本の直線を強引に引くことができるだろう。この場合大塚の考えは、職人的技術のほうに大きく寄っているものだ。僕もこの考えには賛同できる。ただ大塚の言説には逆説が多く含まれている。一見物語の力を貶めるその発言の裏で、物語に対する絶対的な肯定が見え隠れしている。
 おもしろいと思ったのが、小説家には、自然と「物語ること」のできる作家と一生懸命努力して「物語っている」作家に分けられるという指摘。前者に、吉本ばなな川上弘美を、そして後者に、村上春樹をあげている。納得。この区分けは、いろいろな作家にためしてみておもしろそう。前者には女性が多そうな気がする。