人形作家
- 作者: 四谷シモン
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/11/20
- メディア: 新書
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唐や寺山や、あのころの昭和文化人たちに興味がある人なら、後半部は楽しく読めるだろう。シモンの目を通して、彼らの青春群像が語られている。
おもしろかったのは前半部である。四谷シモン、本名小林兼光は、昭和19年に東京の五反田で生まれる。父は独学でバイオリンを学んだタンゴの楽士である。母は没落した旧家の娘で、浅草でストリップダンサーをしている女だった。両親の仲は悪く喧嘩が絶えず、あるとき母が出て行ってしまう。紆余曲折を経て、シモンと弟の2人は、結局母と一緒に暮らすことになるのだが、母は妾になったり、小料理をやったり、堅気の人と再婚したり、目の回るような生き方をしていた。シモンは小中学校と勉強をまったくせず、不良学生であった。そして、中学校卒業時には人形で生きていく決意を固め、進学を就職もしなかった。
シモンの幼少期や少年期の話は多く語られるが、何かが欠如しているような印象をもつ。シモン少年の心の中のとても重要なところに、ぼっかりと大きな穴が存在している。それは、シモンが語らなかったものなのか、語れなかったものなのか、わからない。ただ、そのぼっかり欠如した部分に、人形制作が滑り込んできて、そこを中点として、不安定だか怪しい座標系をシモンの人生の上に作り上げている。まるでそれにより縛り付けられてしまったように。