アラビアのロレンス

アラビアのロレンス (岩波新書 赤版 73)

アラビアのロレンス (岩波新書 赤版 73)

 デビット・リーン監督の映画は、高校生のころに観たことがある。話の筋はほとんど忘れてしまったが、パノラマに広がった雄大な砂漠の中をらくだが歩んでゆくシーンと、それに重ねあわされた音楽だけは、脳裏にしっかり残っている。
 本書は、文学者の中野好夫によるものである。中野の文章は格調高く、薫りたつようなもので、まるで古典の絵巻物語を読んでいるような錯覚に陥ることがある。例えば、「青年考古学者」「沙漠の叛乱」「沙漠の叙事詩」「闘争と孤独」「この人を見よ」といった各章のタイトルを眺めているだけで、遠くアラビアの世界へのエキゾチシズムを感じないだろうか。
 ロレンスの自己分裂的な性格については、「わからないな」というのがわかったという印象。内省的でロマンチストでナイーブで、破滅型の芸術家に多く見られるような性格だろうか。たしか三島由紀夫だったか、思春期とは、「生きる」ということに羞恥心を持っている時代である、と書いていたのを記憶している。ロレンスやそのほかの芸術家たちは、社会に出て、いくつもの断念を経験した後でも、どこかにそのようなものを引きずって生きているような気がする。