子どもの宇宙

子どもの宇宙 (岩波新書)

子どもの宇宙 (岩波新書)

 1人の子どもの中には、広大な宇宙が広がっている。でも大人たちは、現実の日々に心を奪われて、ついついそれを忘れていってしまう。そういった大人たちが、子どもたちの持っている宇宙に気づいてあげるには、どうすればいいのか。児童文学や、心理カウンセリングの過程を例にだして、河合隼雄が紹介している。

  • 「家出」の現象の背後にアイデンティティ確立の問題がある。ただ、現代の社会では「家出」しようにも、土台となる「家」が弱体なので、「家出」の現象が成立しないことがある。このような家出では、子どもは家にかえってこずに、何らかの疑似家族のなかに入り込む形が多い。
  • 秘密の存在は、子どもたちのアイデンティティをささえる一方で、彼らを孤独にさせる。その点で、秘密とはなかなか厄介である。
  • 児童文学作品の中には、日常の世界から非日常の世界へ移行させる「通路」のような存在がある。非日常の、あちらの世界では、日常の世界とは違う価値観が設定されている。
  • 子どもや老人は、人生の導者として、トリックスター*1の役割りをしている場合が多い。
  • 現実の社会の忙しさと、現代人の魂にうったえる儀礼の殆どがなくなってきてしまっているため、弔いや喪はなおざりにされたり、形骸化してしまっている。このようなため、家族内の弔いや喪の役割りを、その家の子どもが役割りを背負っていることが多い。
  • 多くの宗教的儀式が形骸化してしまった現代において、子どもの遊びのなかにこそ、もっとも本質的な宗教的儀式が認められる。

*1:世界の神話・伝説・昔話の中で活躍するいたずらもので、策略に富み神出鬼没、変幻自在で、破壊と建設の両面を有しているところが特徴。彼らは、一般常識にしばられない真実を見つける力があるが、またそれは危険なものともなる。