折々のうた
- 作者: 大岡信
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1980/03/21
- メディア: 新書
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以下は、その中から僕のお気に入りを紹介。
幾山河超えさり行かば寂しさのはてなむ国ぞ今日も旅ゆく
山里の春の夕ぐれ来てみればいりあひのかねに花ぞ散りける
春風の花を散らすと見る夢はさめても胸のさわぐなりけり
春の世の夢の浮橋とだえして嶺にわかるる横雲の空
しら露も夢もこのよもまぼろしもたとへていへば久さしかりけり
五月待つ花橘の香をかけば昔の人の袖の香ぞする面影ばかりのこして あずまのかたへくだりし人の名は しらじらといふまじ
ゆふぐれは雲のはたてにものぞ思ふ天つ空なる人をこふとて
放課後の暗き階段上りゐし一人の学生はいづこに行かむ
ゆく水にかずかくよりもはかなきはおもはぬ人を思ふなりけり
天の河霧立ち渡り彦星の楫(かぢ)の音(と)聞ゆ夜の更けゆれば木のまよりもりくる月の影見れば心づくしの秋は来にけり
秋の月光さやけみもみ葉のおつる影さへ見えわたるかな
わが心澄めるばかりに更けはてて月を忘れて向ふ夜の月
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし見捨つるほどの祖国はありや青空の井戸のわが汲む夕あかり行く方(へ)を思へただ思へとや
滋賀の浦や遠ざかりゆく波間より凍りていづる有明の月
風さやぐさ夜の寝覚めのきびしきはだれ霜ふり鶴さはに鳴く
個人的に、古今や新古今など、そのあたりの和歌が好きなようだ。