折々のうた

折々のうた (1980年) (岩波新書)

折々のうた (1980年) (岩波新書)

 日本の万葉の昔から現代まで、短型詩や和歌などを集める。春、夏、秋、冬と、それぞれの季節にまとめられている。大岡信選日本の和歌グレイテストヒッツ!、といった感じか。
 以下は、その中から僕のお気に入りを紹介。

幾山河超えさり行かば寂しさのはてなむ国ぞ今日も旅ゆく
山里の春の夕ぐれ来てみればいりあひのかねに花ぞ散りける
春風の花を散らすと見る夢はさめても胸のさわぐなりけり
春の世の夢の浮橋とだえして嶺にわかるる横雲の空
しら露も夢もこのよもまぼろしもたとへていへば久さしかりけり
五月待つ花橘の香をかけば昔の人の袖の香ぞする

面影ばかりのこして あずまのかたへくだりし人の名は しらじらといふまじ
ゆふぐれは雲のはたてにものぞ思ふ天つ空なる人をこふとて
放課後の暗き階段上りゐし一人の学生はいづこに行かむ
ゆく水にかずかくよりもはかなきはおもはぬ人を思ふなりけり
天の河霧立ち渡り彦星の楫(かぢ)の音(と)聞ゆ夜の更けゆれば

木のまよりもりくる月の影見れば心づくしの秋は来にけり
秋の月光さやけみもみ葉のおつる影さへ見えわたるかな
わが心澄めるばかりに更けはてて月を忘れて向ふ夜の月
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし見捨つるほどの祖国はありや

青空の井戸のわが汲む夕あかり行く方(へ)を思へただ思へとや
滋賀の浦や遠ざかりゆく波間より凍りていづる有明の月
風さやぐさ夜の寝覚めのきびしきはだれ霜ふり鶴さはに鳴く

 個人的に、古今や新古今など、そのあたりの和歌が好きなようだ。