家族関係を考える

家族関係を考える (講談社現代新書)

家族関係を考える (講談社現代新書)

 1980年に出版された、ユング心理学者の河合隼雄が当時の家族事情から家族の問題を語った本。古い本だが、内容は決して古くない。
 日本では父性の原理より、母性のほうが強い。そして、その母性が、「イエ」という永続する存在と密接につながっていて、父性や家庭全体を包みこんでいる。
 まあ、上記のような指摘は、まあたらしいものではない。(だから意味がない、というわけではないが)なので、本書の独自であろう部分を記す。

  • 子どもの頭の中には、2人の父と母が生きている。子どもが自分の親を実の親ではないと思ったり、昔話で、継母のもとから逃げ出して、本当のお母さんを探しに行くという話が多いのは、この象徴である。これは自立をあらわしている。
  • 日本では、嫁入りの儀式とお葬式の儀式は似ている。嫁入りとは、そのイエにとって「娘の死」に等しかったことの証拠になっている。それほどまで、日本の「イエ」の支配力は強力なものだったのである。
  • 現代の若者たちは、「天なる父」を求めている。しかし、家庭の中で明確な父権をしめすことなどできない。そのことによる子どもたちのやり場のない思い、それが怒り昂ぶらせる原因になっている。
  • 日本の家庭において、父権は3世代上の部分に現れる。つまり、祖父のポジション。これは、ある会社の構造を思いうかべると分かりやすい。会長−社長−従業員という関係のうち、会長には父のイメージが、社長には母のイメージが、そして従業員には子どものイメージがくっつくと想像できないだろうか。
  • 安寿と厨子王』をはじめ、姉が弟のために犠牲になるというお話は多いらしい。姉と弟という関係は日本においては重要になるだろう関係で、弟は姉の中に永遠の女性の姿を見ている場合がある。