歴史とは何か

歴史とは何か (岩波新書)

歴史とは何か (岩波新書)

 名著として有名だが、翻訳された文章としての宿命か、読みづらいところがある。肯定文だと思っていたものが、最後まで読むと否定の文だったり、これは日本語と英語の言葉の構造上の問題だよなあ。もう少し上手く訳してほしかった。
 ただし、内容の方はさすがしっかりしている。
 以下、まとめる。
 歴史とは、歴史家によって選択された歴史的事実によりつくられたいくつかの判断である。かっこ良かった文を引用、

歴史とは歴史家と事実との間の相互作用の不断の過程であり、現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話なのであります。(p,40)

 また、歴史を読み解こうとするとき、その歴史を変遷した歴史家とその歴史家の背景にある社会を把握しなければならない。同時に、過去の歴史的出来事や人物を読み解くときにも、その当時の社会システムをしっかり把握して判断しなければならない。
 そして、歴史の中に因果関係を探ろうとするとき、意識的にしろ無意識的にしろ、価値というものとの関係を避けられない。

「歴史的思惟はいつも目的論的なものである。」(p,159)

 またおもしろかった点は、歴史は進歩するのかという問題について。歴史的な事実や歴史観に対して、深い洞察や広い視野などを絶えず与えていこうとする行為は、歴史を進歩させていると肯定的にとらえてもいいのではないかという話。歴史にたいし、新しい価値の基軸があたえられると、その基軸はたとえ過去の古い基軸を否定するようなものであったとしても、結果的に見るとその古い基軸を内含しているものとなる。その点より、まるで斜面を転がる雪玉が徐々に大きくなるように、歴史は進歩しているとかんがえることができるのではないか。
 これは歴史だけでなく、学問全般に敷衍していけるおもしろい考察。
 最後に熱い文章を、

科学にせよ、歴史にせよ、社会にせよ、人間現象における進歩というものは、もっぱら、人間が既存の制度の断片的改良を求めるにとどまることなく、理性の名において現存制度に向かって、また、公然たる隠然たるとを問わず、その基礎をなす前提に向かって根本的挑戦を試みるという大胆な覚悟を通して生まれてきたものであります。(p,233)