「複雑系」とは何か

「複雑系」とは何か (講談社現代新書)

「複雑系」とは何か (講談社現代新書)

 まったく新しい科学、いや世界の捉え方と言った方が近いのかな、複雑系の世界についての本。著者は大学で理学部(数学専攻)を卒業した後、文学部哲学科を卒業している。そのためか、本文の中に結構な割合で哲学の用語がでてくる。正直、これにはとまどう人も多いのではないだろうか。
 内容は、まず複雑系の簡単な概略を説明する。その後、サンタフェ研究所や人工知能についての実験の歴史を紹介している。最後に、科学史の中での複雑系がもっている位置について示しだそうとしている。
 読む内容、すべてがはじめて知るようなことだったので、とてもおもしろかった。その中でも、僕の興味を引いたものが日本人による複雑系の実験についての文章。欧米人とはちがって、複雑なものをそのまま複雑にとらえることを良しとしてしまう日本人の考え方は、複雑系の研究に向いているのではないかという点。
 さて、複雑系を簡単に言ってしまうと、

無数の構成要素から成る1まとまりの集団で、各要素が他の要素とたえず相互作用をおこなっている結果、全体としてみれば部分の動きの総和以上の何らかの独自のふるまいを示すもの(p,15)

 となる。そしてそれは、こんなところで目撃することができる。

複雑系の科学は)バルザックの作品、プルーストの作品、ウ゛ァレリーの作品、あるいはセザンヌの作品とおなじように、不断の辛苦である―おなじ種類の注意と驚異とをもって、おなじような意識の厳密さをもって、世界の歴史の意味やその生まれ生づる状態においてとらえようとする同じ意思によって。(p,244)