高校生のための論理思考トレーニング

高校生のための論理思考トレーニング (ちくま新書)

高校生のための論理思考トレーニング (ちくま新書)

 高校生じゃないけど購入。いわゆるハウツー本みたいなものかと思っていたけど、そうではなかった(でも、ハウツー的な要素もあるけどね)。
 日本語とは、英語とは、日本人とは、アメリカ人とは、そんなところから話は始まっていて、そんなところからはじめるのかーなんて思っていたら、そこが一番おもしろかった。
 四方を海にかこまれ、外からの侵略を全く受けずに歩んできた日本では、相手の言わんとしていることを察するハラ芸の文化が広がった。一方アメリカでは、多様な人種・民族・宗教が存在し、国民のなかには幾つものバックボーンが存在している。そうした中で、自分の言わんとすることははっきりと相手に伝えるためにロジックの力が必要不可欠だった。そうした点で、日本人は議論が下手で、アメリカ英語は非常にロジカルである。
 また、日本人が議論が下手とされている原因に、宗教の問題、モノセイズム*1の問題もあるとしている。モノセイズムの文明に生きる人たちは、常に絶対他者と自分という意味を問い続けなければならない。そこから生まれてくるのが、アイデンティティーの問題だ。アイデンティティーという明確に自他を区別する点から、相互には人間は理解しあえないという前提が出来上がる。そのため相手に自分の意志を伝えるためのロジックの力がみがかれる。一方、日本人の「八百万の神」「多即一、一即多」の思想では、自他を明確に区別することがなくアイデンティティーが生まれにくい。だからロジックの力もみがかれない。このモノセイズムを中心にした視点は、僕には斬新だった。
 他にも、文明開化以降の西洋文明から輸入してきた言葉たちの存在によって、より論理力の向上や論文の読解をやっかいにしている。たとえば、英語のabstractionは「抽象」とも「捨象」とも訳される。「対象化」や「客体化」、「相対化」も結局は一つの言葉である。
 で、以下は論理思考のハウツー部分。

 私が自分のディベート体験から帰納した論証責任の条件は、次の3つである。

  • 相対的な形容詞
  • 助動詞
  • think,believe,want,wishなど、Iを主語とする「主観」を表わす動詞(p,100)

 ディベートの原理とは、三角ロジックである。それとは

  • クレーム(claim)=論証責任
  • データ(date)=事実
  • ワラント(warrant)=データをあげる根拠

の3点からなる。
 いい勉強をさせてもらった。

*1:このモノセイズムとは日本人が考えているような単なる「一神崇拝」ではなく、人間と絶対他者との決定的な二元論であると作者は定義している。