靖国神社

靖国神社 (岩波新書)

靖国神社 (岩波新書)

 明治維新以降の、国家神道の中で靖国神社がどのような役割を果たしてきたのかについてまとめている。
 そもそも国家神道という近代天皇イデオロギーとは、天皇に「政治的な支配者」と「宗教的な神または家父長的な父」を重ねあわせたものである。それを社会に浸透することができたのは、日本の民衆の中に染みついていた靖国神社などにたいする農業神への信仰のおかげである。日本政府は、神社や家族といった日常的なところから天皇制を浸透させていき、近代国家をつくっていったのである。
 そして、靖国神社は維新後につくられた神社である。この靖国神社は国家の管轄化にあり、天皇と国民の軍事関係において密接なつながりをもつものであった。靖国神社には西南戦争以後、日進や日露戦争戦没者が祭られている。それらはいわば近代日本国家の犠牲者たち、つまり「いけにえ」である。このような点からも、靖国神社国家神道の中で中核をなす神社として存在していたのだ。