砂の女

砂の女 (新潮文庫)

砂の女 (新潮文庫)

 この作品も、10代の頃すごく好きだったもの。再読。
 読んでみてまず驚いたのが、本の薄さ。250ページくらいしかない。こんなに薄かったとは。すごく濃密な印象を持っていたから、結構な量なのかなと思っていたら、意外にさくっと読めてしまう。でも、今回も印象はすごく強かった。最近のエンタメ作家たちは見習ってほしい。
 話の筋をすでに分かった上で読むわけだから、ストーリーの構成を意識して読んでみると、非常によくできている。文学作品として以前に、小説としてとても完成度が高い。かつての純文学には、このような作品がかなりあった気がする。現代の作家はそのあたりをどのように考えているのだろう。優れた小説と優れた文学作品は必ず、頂上のほうで一致すると考えられると思う。本作は、そのいい代表例だろう。
 ミステリばかり読んでいると忘れてしまいそうになるけど、やはり物語のダイナミズムは登場人物たちの感情がぶつかり合うドラマにあるのだろう。
 そういえばと、僕は15くらいの頃から、はじめっから倦怠感の漂う男と女の話が、大好きだったんだよなあ。不意に思い出した。