秋の花

秋の花 (創元推理文庫)

秋の花 (創元推理文庫)

 やはり達者である。
 前回の、「夜の蝉」のエントリのところで書いてみたけど、本格ミステリであるのに、作者の作為的な部分、人工的な部分がまるで感じられない。
 「日常の謎派」と呼ばれる作品群があるけれども、それらのミステリとは、ミステリがどうしても持たざるおえない物語の作為的な部分、それを作品中にいかに隠蔽するか、そのことが重要である気がする。ミステリでありながら、ミステリであることに拒んでいるかのような作品たちであると思う。
 では、どのようにすれば隠蔽できるのか。「密室」や「物理トリック」といったミステリのお約束がなければ、成功するのか。それは間違いだと思う。もっと重要な何かがあると思うのだが、うーん、まるでわからない。この部分は宿題である。
 また、本作品を読んでいて感じたのは、何気なく挿入されている小さな話がなんと魅力的であるか。それらは本筋とはまるで関係ないものであるのだが、全体を見渡したとき、なるほどなあと絶妙な味わいを感じさせてくれる。中学や高校のころ、授業の合間に先生が話してくれた、勉強には関係あるけど、教科書とは関係のない話のような、そんな雰囲気である。そんな話のほうが、教科書の内容よりもずっとずっとおもしろかったのを覚えている。それに近い。