夜の蝉

夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

 抜群におもしろかった。何よりものすごい技巧である。
 何気ない日常が、魅力的な筆致で紡ぎとられていって、小さな物語だと思っていた世界が、いつの間にか大きな世界に変わっている。とんでもない構成力だと感嘆するが、構成力だなんて、作家の作為性を感じること自体、間違っているかのような印象をもつ。本格ミステリという、美しき様式美に鎖でつなげられた小説として成立しているのに、人工的な部分はまるで感じさせない。ミステリのもっているある種のいやらしさの部分を、本作は見事に消化している。そのうまさにゾッとする。
 ミクロな世界を淡々と描いていて、ここまで見事にマクロな世界を感じさせることができるのだろうか。