日本語の文法を考える

日本語の文法を考える (岩波新書 黄版 53)

日本語の文法を考える (岩波新書 黄版 53)

 日本語の文法についての、エッセイのような本。体系的に日本語の文法を語っていくというわけではなく、いくつかのポイントを当てて持論を述べている。印象に残ったところを取り出しておく。
 日本語はわかっている部分を省略する。これは、日本人がもともと稲作で生活をしていて、人間関係の中で流動性が少なかったことより起因する。
 助詞の<ハ>と<ガ>について。ハの上には既知の情報が置かれて、そこで文が一度分断され、その下には何か知らない情報が来て、説明や疑問の文となる。一方、ガの上には未知の情報がきて、それはその下に来る文をガと一緒に条件づけることとなる。つまり、下の部分のすでに知っている情報に対して、上の未知の情報を加えることとなる。
 日本語には抽象名詞が少ない。そして、オノマトペなどの擬音語、擬態語が非常に多い。これは日本人の世界のとらえ方に由来する。オノマトペの表現は、対象と自分自身を、どこか一体に融合させ、未分化のまま表現する語法である。このように、日本人は主観的に世界をとらえようとする。一方、抽象名詞は対象を客観的にとらえようとしているものである。抽象名詞には漢語が多く、それらは平安時代より日本に入ってきたものである。抽象名詞は目か入る言葉の中では定着しても、耳から入る言葉の中には定着しなかった。日本人が抽象的な議論を苦手とする原因は、こういったところにある。
 日本語には、未来系も過去完了系も存在しない。これは、日本人と西洋人との、時間に対する感覚の相違からくる。日本人にとっての時間の感覚だと、未来や過去は自分の主観の中に、経験や推定の中に存在している。一方、西洋人にとって未来や過去は客観的な場として存在している。