森博嗣のミステリィ工作室

森博嗣のミステリィ工作室 (講談社文庫)

森博嗣のミステリィ工作室 (講談社文庫)

 一言で言うならば、森博嗣のことをもっと知りたい人のために本。
 内容は、森博嗣が選ぶミステリィ100選(ミステリィでない作品もかなりまざっているが)、S&Мシリーズの作品1つ1つに対してそれぞれ解説、萩尾望都との対談、学生時代の同人誌に掲載された漫画、とかなりもりだくさん。
 作家にしては、かなり素直に語っている。同人誌の漫画は、かなりうまいので驚いた。才能だけなら、そこらへんの漫画家をはるかに凌駕している。80年代にあらわれた24年組みの影響を受けたのだろう、叙情派と呼ばれた漫画家たち、松本剛冬野さほさそうあきらの初期の頃とか高野文子の初期の頃、の作風に近い。こういったマンガたちが大好きだったのだが、商業紙で描かれることはもうないのだろうか。
 森の小説観をうかがえる箇所を、3つだけ引用。

答に行き着く思考を妨害したメカニズムとは何か。それを抽出することができれば、ミステリィが一作書けるだろう。これが、オブジェクトではなく、メソッドを尊重する理系の思考かもしれない。(p,243)

文章には、内容を正確に伝えるための客観的なデッサン力とは別に、スピード感やリズムという別の要素があって、書き手が読み手をコントロールするためには、言葉のこの裏の機能が必要です。読んだ人にここで目を止めさせる、ここでハッとさせる、というようなコントロールで、それが言葉のもう一つの力なのです。(p,199)

文章に何ヶ所か光る部分があれば、読者はそれを足がかりにして読み進めることができます。ただ文字を追わせるのではなく、「あ、面白い」というポイントをたどって人がついてくる感じ。ネズミ捕りみたいに餌を点々と置いて誘導していくのです。それがない読者はどこかに行ってしまう。捕まえることができません。(p,145)