ジャンヌ・ダルク 超異端の魔女

ジャンヌ・ダルク (講談社現代新書)

ジャンヌ・ダルク (講談社現代新書)

 ジャンヌ・ダルクの生涯について順を追って記述していくというのではなく、中世における女性の立場というものを示すために、ジャンヌが使われているといった印象。
 ジャンヌは13の時、自宅の庭で突然「声」を聞いた。その「声」は、ジャンヌに国を救うようにとの使命を与えた。少女は甲冑に身を固め、白馬にまたがり、そしてついにはオルレアンを開放してしまった。「声」のお告げ通りに、少女はフランスを救った救世主になった。
 ジャンヌには、さまざまなイメージが重なりあう。神秘家、名誉回復の聖女、処女、戦士、男装のアンドロギュノス。少女の存在は、正統と異端というキリスト教の教義の地平を超越して、超異端の存在として、人々の心を刺激する。そのところに、ジャンヌの死んだその後、ジャンヌが聖女としてローマ・カトリックに承認された背景がある。ジャンヌはキリスト教以前の非常にプリミティブな信仰を、人々に喚起させたのである。
 また、当時の民衆にジャンヌが熱狂された理由がほかにも存在する。100年戦争の末期は「中世の秋」と呼ばれた時代である。騎士道の理念というものは既に、最盛期を過ぎた時代であった。ジャンヌの甲冑をまとった処女の戦う姿とは、古代世界での巫女としての神性と、かつての騎士道との理念という、2つの信仰を民衆に促すことになった。結果、ジャンヌはカリスマになりえたのだ。
 全体をして、ジャンヌについての本というより、中世についての本といった傾向である。