タナトスの子供たち
- 作者: 中島梓
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2005/05
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 9回
- この商品を含むブログ (38件) を見る
本書では、女オタク文化の(最近は腐女子というのだろうか、あまりいい響きではないな)「やおい」について論じている。98年刊行の本であるので、まだ「ボーイズ・ラブ」ではなくて、「やおい」。両者の間には違いがあるらしいのだが、女オタク文化に疎い僕には、よく分からない。
さて、結論のところを簡単にまとめると、
現代の日本社会は男性社会である。社会より、少女たちは大きな抑圧を受けている。恋愛しろ、きれいであれ、また頭も良く、品行おだやか、将来はいい妻になり、またいい母となれ、そして何より性的欲求の対象の商品としてのみみなされている。それらは少女たちにとって、大きなプレッシャーである。
無邪気に「世界は私のためにある」と信じることができなかった、「世界は私のためにあるんじゃない。一見そうみえていてさえ、世界は私をそのうち確実に世界の思いどおりにしようとしている」と激しく思った少女たちにとっては、それは虐待だったのです。(p,333)
「やおい」とは、そのような少女たちにとって救済であった。男しか出てこない物語で、「攻め」と「受け」のキャラクターを登場させ、性的世界の体系を仮想する。自らに架せられた恋愛と性愛という自意識から逃れ、現実世界のシステムに対抗する手段として、「やおい」は機能する。「やおい」とは力ない少女たちが、この世界の理不尽さから解放するための装置であったのだ。
そして少女たちは、自己を分裂することで、一方は「やおい」の世界に安住の地を見つけ、もう一方は、現実の世界で妻や母として一般的な人生をおくる、という道をえらんだ。
これは、女オタク文化にかぎらず、男オタク文化や若者文化全般に敷衍していける発想だろう。僕が1つ目に引用した文章など特に、ドキッとさせられてしまった。