演劇入門

演劇入門 (講談社現代新書)

演劇入門 (講談社現代新書)

 戯曲のもっている構造について解説しながら、演劇についての入門書としている。少々アクロバットかなと思わせることもないが、入門書としては成功している。良書であろう。大学1年の頃に読んでおけば良かった。これを読んだ後に、シェイクスピアを読みかえしてみれば、また違った印象を受ける気がする。
 基本的に戯曲は、舞台に登場する人物の話す会話によって物語を進行させる。そのことにより、いろいろな特色を持つ。
 演劇の舞台には、セミパブリックな空間が向いている。「内部」のひとに対して「外部」の人の出入りが自由な空間という意味である(→49)。プライベートな場所では、そこに「外部」の人間が自由に出入りできる状況をつくってあげれば、舞台として十分に成立する。
 演劇は小説やマンガとはちがって、だんだんと謎がとけていくというような展開は向いていない、ということを把握しておくことが、演劇を理解するために重要なことである。(→65)

劇作家は、ストリーの中で、ある重要的なシーンだけを抜き出して舞台を構成し、その前後の時間については、観客の想像力に委ねるのだ。逆に、観客の想像力を喚起するような台詞を書くことが、劇作家の技術の一部だと言うこともできるだろう。また、観客の想像力をうまく方向付けていくということも、劇作家の大きな仕事である。(p,65)

 登場人物たちは魅力的でなければならないが、彼らの持っている情報には差がなければならない。彼らが話すことによって、観客は情報を得ていくわけである。だから、彼らの持っている情報に差がなければ、登場人物たちの話がはじまらないし、物語が行き詰まってしまう。
 登場人物たちが舞台でする会話の話題には、2つの重要な点がある。1つが、なるべくそのプロットでつたえたい内容から離れたものである方がいい。2つ目は、しかしながら全体のモチーフや状況から離れすぎてはいけないというもの。

運命に立ち向かうにしろ、立ち向かわないにしろもともとは卑小な存在であった一個人が、直面する問題の中で右徃左往し、人間として変化していく。それが、演劇というドラマの本質である。(p,74)

 またおもしろい指摘に、「対話」というものを基調において成立しているギリシャ演劇とギリシャ哲学には、民主政治の成立と深く関わりがあるのではないかと、いう点がある。民主政治では、多くの市民の意思をあるひとつの意思のもとへ、コンテクストを一致していかなければならない。そのためには、「対話」というものが絶対的に必要である。古代ギリシャ時代の人たちは、「対話」というものの必要性を直感的に感じていたのではないだろうか。そういった社会で、「対話」を基調においた哲学や演劇が発生したのが、必然だったのではないか。