将棋の子

将棋の子 (講談社文庫)

将棋の子 (講談社文庫)

 プロの将棋棋士を目指す少年たちは若くして奨励会に入会し、青春のすべてを将棋にささげることになる。しかし、26歳になる前に4段まで昇段しなければ、彼らは奨励会を退会しなければならず、今まで夢見てきたプロ棋士への道は永遠に閉ざされてしまう(現在では例外もあるらしいが)。しかし、4段に昇段するのはあまりにも狭き道であり、ほとんどの青年たちが夢やぶれ去っていく。10何年の間、あるものは高校にも進学せず、ただひたすらに打ち込んできた将棋の道を捨てて、彼らは右も左も分からないまま社会へと放り出される。絶対的な価値観の転回とおそろしい挫折感。本書はそんな彼らの、奨励会を去った後の人生を追っていく。
 著者は日本将棋連盟の中で、ある将棋雑誌の編集長をしていた経歴をもつ。奨励会でプロを目指す院生たちを、まさに目の前で見てきた人物である。
 すばらしい本である。どうしようもなく胸を打つ話も多い。
 何か信じて生きていくということはどういうことなのか。絶対的なものを求めようとすること、それはバランスの悪い生き方なのだろうか。もっと上手く立ち回って生きていくべきなのだろうか。
 本書の最後、この作品の主人公ともいえる成田が、将棋の夢やぶれ挫折して、現在は人生の苦渋をなめているにもかかわらず、それでも将棋が自分の支えだと話す場面では、言葉には言い表せないようなものを感じる。
 良書である。