荒野の恋 第1部

荒野の恋〈第1部〉catch the tail (ファミ通文庫)

荒野の恋〈第1部〉catch the tail (ファミ通文庫)

 やっぱりすごい奴なのだな、桜庭一樹。圧倒的だ。
 中学に入学したばかりの荒野はちょっと内気なメガネをかけた女の子。有名な恋愛小説家の父親と家政婦の奈々子さんと、鎌倉の街で暮らしている。中学生になって、少しずつ変わっていく日常に、荒野も少しずつ変わっていって…。
 基本は少女小説なのだけれども、ミステリ小説でつかわれるような技法を駆使していて、かなり読ませる。恋もつまりはミステリーってことね。
 作者の桜庭一樹は女性らしいが、12歳の少女のオトナともコドモともつかない複雑な感情を描写するのに、見事に成功している。こういった微妙な感情は女性作家にしか描けないよなあと思う。だって、12歳の荒野が新しくお母さんになった蓉子さんを見つめて、

もう若くないが、まだ少しだけ美しい。(p.109)

 なんて考えているんだよ。この文章を読んだとき、僕はベッドの上でもんどりうったね。(ベッドで横になって読んでいたんです)。トリハダものだった。
 3部作になっているらしいので、まだまだつづく。うれしい。