羊の歌

羊の歌―わが回想 (岩波新書 青版 689)

羊の歌―わが回想 (岩波新書 青版 689)

 少年時代から青年期までの自分の人生をまとめている。自伝として読むより、小説として読んだほうが面白いと思う。実際に加藤周一の生涯について興味を持っている人間なんてそうはいないだろうし。
 興味を引かれたのは、やっぱりマティネ・ポエティックのぶぶん。書かれている分量はほんとに少しだけ。加藤本人はマティネ・ポエティックを失敗だとは考えていない。マティネ・ポエティックの不幸について加藤は、前世紀末のフランス象徴主義の詩人たちを夢見たことであり、それは不可能な夢想の企てであったところにあるとしている。日本語における脚韻詩の可能性は十分に存在していると述べる。
 僕にはそんなところも含めて、若い芸術家たちの夢想への挑戦であったと感じる。社会を知らない若者と、社会の価値を認めない芸術家は、ささやかな幸福を見つけることができず、実現不可能な夢想の中に生の実存を感じてしまうのだろうと思う。