天皇と日本の起源

天皇と日本の起源 (講談社現代新書)

天皇と日本の起源 (講談社現代新書)

 タイトルの通り、「天皇」と「日本」がいつ誕生したのかを探る本。そのためには本書では、日本を統一し中国の皇帝のように自らが世界の中軸であるとみなす世界観の誕生が欠かせないと考えている。結論から言えば、「天皇」が誕生したのは壬申の乱後の天武天皇のとき、「日本」が誕生したのは新益宮、藤原宮が出来上がった天武より一代後の持統天皇のときである。
 「天皇」誕生のいきさつを簡単にまとめる。壬申の乱以前の、推古天皇斉明天皇の時代での彼女らの地位とは、地方の豪族をとりあえずまとめ上げているだけの、「天皇」という絶対的な地位の存在ではなかった。当時は、大王と呼ばれていた。天武天皇壬申の乱を利用して、その戦で活躍した豪族たちを大王として昇格させる一方で、自らをその大王を超える「天皇」という位置にまで持ち上げる準備をしていた。
 「日本」誕生のため、統一的な世界観を作り上げるには、立法の制定や行政を運営するための制度が必要となるだろう。厩戸皇子の「憲法十七条」や、孝徳天皇大化の改新がこれにあたる。しかし、それ以上に重要視されているのが、天皇が住むための宮の存在である。天皇が暮らす場所、そこは聖地でなければならず、他の豪族たちを圧倒するものでなければならなかった。本書は飛鳥時代の歴史全般を範囲としているが、天皇による都の創造についての歴史に、多くの紙幅が占められている。天皇にとって都の創造とは、自分自身の地位と力を示すための重要な存在であった。また都が完成してもすぐにはそこに入らず、しばらく時間をおいて、その都が聖地として成熟するのを待っていたという経緯はおもしろい。国政が安定し、「天皇」が誕生し、十分な都が完成したとき、それが藤原京であり、そのときに「日本」という国号がうまれたのだ。