文化人類学への招待

文化人類学への招待 (岩波新書)

文化人類学への招待 (岩波新書)

 題名の通り、文化人類学の入門書。
 「交換」の概念を軸に据えて、マリノフスキーからレヴィ・ストロースまで、人類学の歴史についても触れている。このこと自体に真新しい部分はない(だから意味がないというわけではないが)。そこで、本書独自の部分を記述しておく。
 互酬性でつながれた社会で、女性の交換という存在は、まさにその2つの社会の紐帯、仲介者の役割を担っているというのは、レヴィ・ストロース文化人類学に詳しい。知恵と霊的な力、霊的な力と物質的な力は、本来それほど区別されるものでなかった。そして、それらは本来女性がもっていた力だった。
 次に政治について。政治は、両義的な意味をもっている。1つは、社会の階級、つまりは上下関係をつくる機能を持つ。これにより、人々は他社と自己を区別できるようになり、自己を変化させていくための基準を持つことができる。もう1つが、社会全体の「死と再生」という浄化のカタルシスを受け持っていることである。カーニバルや祭りが、その共同体にとって浄化のカタルシスを与えているというのは、人類学の常識だろう。それが、そのまま政治の部分にも当てはまるというのだ。わかりやすい例を出すと、ある村の長老が死んだとする。そして次の長老が誕生する。これにより、その村の人々は「死と再生」を通過したといえる。長老の交代のときに、何かしらの儀式が催されるというのも象徴的である。このことは、現代の政治ではなく、封建社会絶対王政の時代を考えてみれば、納得できるのではないか。つまり政治的権力者には、自らの力によって社会を作り出す機能と、自らが死ぬことによって社会を再生するという機能をもつ。シェイクスピアの「リア王」や「リチャード3世」で見られる狂気とは、このようなものからやってきているといえる。