イスラームの日常世界

イスラームの日常世界 (岩波新書)

イスラームの日常世界 (岩波新書)

 イスラム教について知るのにあたり、とっかかりにしようと思ってえらんだ本。その判断は正しかった。ただ91年出版と古い本なので、その後のイスラム社会ついての言及がないのが難点だろうか。
 読んでいて感じるのが、イスラム*1がとても合理的な思想であるということ。本書の中で、そのような観点からイスラームの信仰をながめることは、全くの間違いであるとはっきりしるしてある。しかしながら、1日に何度も繰りかえす(正しくは5回)メッカへの祈りなども、本書を読んだ後だと、人間の生理にとても適した行動であると実感できるようになる。朝、起床後に(今日も1日がはじまったことを感謝するため)メッカに祈り、昼のブレイクタイムに(忙しい時間の流れからリラックスするために)メッカに祈り、夜に(今日も1日が無事であったことを)メッカに祈る。この( )内の部分は、僕がかってに入れこんだもので、ムスリムの人たちはおそらくそんなことはかんがえていない。ただしこのような効果が祈りを捧げる人たちの中に働いているだろうと、容易に想像できる。
 おもしろかったトコロ。日本や古代ギリシャ社会は、性善説でなりったている。そのため、人と人との契約は信用で成立する。近代西洋社会は性強説である。もともとは性悪説であったキリスト教が、近代の政教分離などを経て、人間は自然界を支配できるほど強い存在であるのだ、という性強説に傾いていった。さて、ムスリム社会は性弱説である。人間は弱いものである、というものを潔く認めるのがイスラームである。この点をふまえると、女性がベールをかぶるなどのムスリム社会の特徴が理解できるようになる。またそのおかげで、ムスリムの社会では社会的弱者への加護が篤い。
 イスラームに対する偏見がぼろぼろなくなっていく本だった。

*1:正しくはイスラームと呼ぶらしい