日本の近代建築
- 作者: 藤森照信
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開国後の神戸や長崎などの港町には、下見坂ヴェランダコロニアル様式という西洋館がつくられる。その直後には、これまで日本の伝統的な建築を行っていた大工さんたちが、その西洋館を真似た、擬洋風の建物がつくられる。これは和洋折衷とは少し違い、悪く言ってしまえば西洋館の出来損ない、それまで西洋館なんて見たこともない大工たちが、その経験と感覚だけでまねしてみた、非常に楽天的なものであるといえる。
その後に活躍するのは、日本政府によって正式に招かれた西洋の専門的な建築家たちである。開国直後に活躍した建築家たちとは実は、いわゆる冒険者気質の強いというか、はるばる海を渡ってわけのわからない東洋の地にやってくるような、例外的な人物であったのだ。政府によって招誘された建築家たちは、正当的なヨーロッパ建築を日本に伝え、また彼らの教えを受けることによって日本の若き建築家たちも、正しいヨーロッパ建築を学ぶことができるようになった。つまりここに日本の建築家の誕生があったのだ。この世代の建築家たちは、西洋の伝統建築を学び自分の手にするだけで精一杯だった。西洋建築の伝統の中へ和風の趣を融合させようとしたのは、彼らの次の世代の日本の建築家たちである。そして彼らと、彼らの次の世代が活躍した明治の終わりから、大正期全般にわたって、日本の建築は質、量ともに豊穣の時代を迎える。そして時代は昭和へ移り、日本は太平洋戦争へ進んでいく。